用語集

強制退去

きょうせいたいきょ

強制退去とは、判決と強制執行手続きを経て借主に物件を明け渡してもらうこと。家賃滞納や信頼関係破壊の有無が重要です。

強制退去とは

強制退去とは、賃貸物件の借主が任意に退去しない場合に、裁判所の判決と強制執行手続きを経て、物件の明渡しを実現する手続きです。貸主や管理会社が独自に鍵を替えたり、荷物を運び出したりすることではありません。自力救済は違法性を問われるおそれがあるため、裁判手続きを経て進めます。

典型例は家賃滞納です。ただし、1回の支払い遅れだけで直ちに契約解除や明渡しが認められるわけではなく、信頼関係破壊の法理が問題になります。実務では3か月以上の滞納、督促への不誠実な対応、連絡不能、無断転貸、重大な用法違反などを総合して判断します。

期間は、督促から内容証明、明渡訴訟、判決、強制執行までで5〜7か月程度かかることが多く、争いが大きい場合は1年を超えることもあります。退去後の原状回復では、経年劣化と借主の故意過失による損耗を分けて精算します。

賃貸借契約での扱い

強制退去の前提は、賃貸借契約の解除と建物明渡請求です。民法は賃貸借と債務不履行の基本ルールを定め、家賃滞納は賃料支払義務の不履行として扱われます。ただし、建物賃貸借では借主の生活基盤に関わるため、解除が有効かどうかは信頼関係破壊の有無で慎重に判断されます。

借地借家法は、貸主都合の更新拒絶や解約申入れに正当事由を求めます。強制退去は、貸主都合の立ち退きとは異なり、借主側の債務不履行や重大な契約違反を理由に解除を主張する場面です。正当事由として立退料を積む話ではなく、契約解除の有効性と明渡しの可否が争点になります。

家賃保証会社や連帯保証人がいる場合でも、貸主が勝手に退去させられるわけではありません。保証会社は滞納賃料を代位弁済し、借主や保証人へ求償することがありますが、明渡し自体は法的手続きが必要です。

強制退去と関連概念の違い

区分原因必要な手続き費用の主な負担
強制退去家賃滞納、重大な契約違反解除通知、明渡訴訟、強制執行裁判費用、弁護士費用、執行費用
立ち退き建替え、自己使用、再開発協議、調停、訴訟立退料、移転費用
任意退去借主の解約契約の予告期間引越し費用、原状回復精算
督促支払い遅れへの請求電話、書面、内容証明未払賃料、遅延損害金

強制退去は最終段階です。多くのケースでは、督促、分割払い協議、保証会社の代位弁済、解除通知を経て、それでも解決しない場合に明渡訴訟へ進みます。

具体例

強制退去につながりやすい例:

  • 家賃を3か月以上滞納し、督促や支払い相談にも応じていない
  • 長期滞納に加えて、連絡不能で室内の使用状況も確認できない
  • 無断転貸や民泊利用など、契約で禁止された使い方を続けている
  • 近隣への重大な迷惑行為が継続し、改善の約束が守られていない
  • 契約解除通知後も、退去日や支払いについて協議が成立しない

強制退去として進めにくい例:

  • 家賃の支払いが数日遅れただけで、すぐに支払い済みである
  • 滞納が1か月分で、借主が分割払いの具体案を出している
  • 病気、失業、高齢などで一時的に支払いが遅れ、福祉相談につながっている
  • 貸主側の修繕不履行や賃料減額の争いがあり、滞納額に争いがある
  • 貸主が裁判なしに鍵交換や荷物処分をしようとしている

実務上のポイント

貸主側は、滞納額、支払期日、督促履歴、借主の回答、保証会社や保証人との連絡記録を時系列で残します。解除通知は、未払賃料、支払期限、支払いがない場合の解除意思を明確にし、内容証明郵便を使うことが多いです。感情的な表現や威迫的な文言は避け、証拠として読まれる前提で作成します。

借主側は、滞納が生じた時点で早めに連絡し、支払予定、分割案、利用できる支援制度を説明します。無視すると信頼関係破壊の方向に働きます。病気、失業、生活困窮がある場合は、自治体窓口、社会福祉協議会、法テラスなどへ相談し、貸主へ相談中であることを伝えます。

管理会社は、保証会社へ任せきりにせず、通知内容、入金状況、室内確認、連帯保証人への連絡範囲を整理します。強制退去後の荷物処分や原状回復費用は、執行手続きと精算の両方で費用が膨らみやすいため、見積もりと記録を保存します。

強制退去までの流れと期間

一般的な流れは、督促、内容証明による催告と解除通知、明渡訴訟、判決、強制執行の申立て、催告、断行です。明渡訴訟は、借主が争わない場合でも数か月を要します。判決後に任意退去がなければ、執行官が現地で催告し、指定日に明渡しを実施します。

期間の目安は5〜7か月です。借主が所在不明、送達が難しい、滞納額や解除の有効性を争う、室内に大量の残置物がある、といった事情があると長期化します。貸主側は、次の募集やリフォームの予定を詰めすぎないことが必要です。

費用と荷物の扱い

費用は、弁護士費用、訴訟費用、強制執行申立費用、執行補助者費用、鍵交換、残置物の搬出・保管・処分、原状回復費用に分かれます。規模や地域で差がありますが、総額で数十万円から100万円規模になることがあります。滞納賃料を回収できないまま費用だけが先に出る場合もあります。

強制執行で搬出された荷物は、執行手続きに沿って保管や売却・廃棄が検討されます。貸主が自己判断で処分すると損害賠償の争いになりやすいため、執行官、弁護士、執行補助業者の指示に従います。残置物の写真、品目、搬出日、保管費用の記録は精算資料になります。

保証会社・連帯保証人への影響

家賃保証会社が入っている場合、滞納賃料は保証会社が貸主へ代位弁済し、その後に借主へ求償する流れが多くなります。保証会社が督促や明渡し関連の手続きを進めることもありますが、借主に明渡しを求めるには裁判手続きが前提です。保証契約の範囲によって、訴訟費用や残置物処分費まで保証対象になるかは異なります。

連帯保証人には、未払賃料、遅延損害金、原状回復費用、明渡しまでの損害金が請求されることがあります。借主が連絡を絶つと保証人への請求が急に重くなるため、支払いが難しい段階で借主本人、保証人、保証会社、管理会社の間で連絡先と支払案を整理しておくことが重要です。

強制退去できない・慎重に見るケース

病気、高齢、障害、経済的困窮がある場合でも、家賃滞納が長期化すれば明渡しが問題になることはあります。ただし、裁判所や当事者の協議では、支援につなぐ余地、分割払い、退去時期の猶予、福祉部門との連携が検討されることがあります。特に居住用賃貸では、生活基盤を失う影響が大きいため、早期相談が重要です。

貸主側に修繕義務違反がある、賃料額に争いがある、請求額の計算が誤っている、保証会社の請求と貸主の請求が重複している場合も、すぐに単純な滞納として扱えないことがあります。借主は資料を保存し、貸主は請求根拠を明確にします。

関連法令・出典

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