賃貸の修繕費を払わなくていいケース - 貸主負担になる範囲と請求拒否の根拠

監修

賃貸リフォーム研究所 編集部

原状回復・退去費用の専門メディア

賃貸物件の原状回復・退去費用トラブルに関する正確な情報発信を行う編集チーム。国土交通省ガイドラインや民法の規定に基づき、退去者・管理会社双方の視点から解説記事を制作。

賃貸の修繕費を請求されても、借主がすべて払う必要はありません。部屋を借りて住んでいる以上、日常的な注意義務はありますが、建物や貸主設備を維持する責任まで借主に移るわけではないからです。

民法606条は、貸主が賃貸物の使用収益に必要な修繕をする義務を負うと定めています。民法621条も、退去時の原状回復義務から通常損耗と経年変化を除いています。つまり、普通に使って古くなったもの、自然に壊れた貸主設備、建物本体の不具合は、借主が払わなくていい修繕費として検討できます。

この記事では、借主が修繕費を払わなくていい典型例、設備故障・自然災害・共用部の扱い、過大請求の見抜き方、書面での拒否手順を整理します。修繕費全体の基本は賃貸の修繕費は貸主・借主どちらが払う?も参照してください。

借主が修繕費を払わなくていい原則

賃貸借契約では、貸主が物件を使用できる状態で提供し、借主が賃料を支払います。家賃には、建物や設備の経年劣化を見込んだ維持管理費も含まれていると考えられます。そのため、通常使用で古くなった設備や建物部分の修繕費を、個別に借主へ転嫁するのは原則に合いません。

払わなくていいかどうかは、次の順で確認します。

  1. その部位は貸主設備・建物本体・共用部か
  2. 故障や損傷の原因が経年劣化や通常使用か
  3. 借主の故意・過失、使い方の誤り、通知遅れがないか
  4. 契約書に明確な特約があるか
  5. 請求額が必要な修繕範囲に限られているか

このうち1から3で貸主負担の方向が強ければ、借主が払わなくていい可能性があります。特約があっても、範囲や金額が曖昧で借主に一方的に不利な内容なら、有効性を争えることがあります。

払わなくていい典型例10選

以下は、借主が通常どおり生活していたことを前提に、貸主負担と考えやすい修繕です。

1. 給湯器の経年故障

入居時から設置されていた給湯器が古くなり、お湯が出ない、点火しない、エラーが出る場合は貸主負担が基本です。借主が改造した、異常を放置したなどの事情がなければ、生活に必要な貸主設備の修繕に当たります。

2. 備え付けエアコンの自然故障

契約書の設備欄にエアコンが記載されているなら、通常使用による故障は貸主負担です。夏や冬に使えない状態が続くと生活への支障が大きいため、発生日、症状、室温、エラー表示を記録して修繕を求めます。

3. トイレや浴室設備の老朽化

便器やタンク内部品、浴室換気扇、水栓、シャワーなどが老朽化で壊れた場合は、貸主負担が基本です。借主が異物を流した、強い衝撃で割ったといった事情がある場合だけ、借主負担が問題になります。

4. 配管の劣化による水漏れ

壁内、床下、天井裏、共用配管など、借主が日常的に点検できない部分からの水漏れは貸主側の修繕範囲です。水漏れを見つけたら元栓、漏水箇所、濡れた範囲を撮影し、すぐ管理会社へ通知します。

5. 雨漏りや外壁劣化

屋根や外壁、サッシ周りの劣化で雨水が入る場合、建物本体の不具合です。借主が払う修繕ではありません。放置するとカビや床材の腐食に広がるため、初回発見時の写真と連絡記録を残します。

6. 壁紙の日焼けや電気焼け

日照によるクロスの変色、テレビや冷蔵庫背面の黒ずみは、国交省ガイドラインで通常損耗・経年変化に近いものとして整理されています。退去時に借主負担として請求されても、根拠を確認すべき項目です。

7. 家具設置による床のへこみ

ベッド、棚、テーブルなど通常の家具を置いたことで床やカーペットに跡が残ることは、一般的な生活で避けにくい損耗です。重量物を無理に引きずって傷を付けた場合とは分けて考えます。

8. 鍵や建具の自然故障

玄関錠の経年劣化、ドアクローザーの寿命、網戸やサッシ部品の老朽化は貸主負担が基本です。鍵を紛失した、建具を強くぶつけて破損した場合は借主負担になります。

9. 共用部の照明・廊下・階段

集合住宅の廊下、階段、エントランス、集合ポスト、共用灯などは借主個人の専有部分ではありません。通常は貸主や管理会社が維持する範囲で、借主が個別に修繕費を払うものではありません。

10. 次の入居者のための美装

破損がない畳表替え、通常清掃後のハウスクリーニング、紛失していない鍵交換などは、国交省ガイドライン上、次の入居者確保や物件管理のための費用として貸主負担側に整理されます。退去費用で請求された場合は退去費用で払わなくていいもの一覧を確認してください。

設備故障の負担

設備故障で最初に見るべきなのは、「設備」か「残置物」かです。賃貸借契約書や重要事項説明書の設備欄に記載されているものは、貸主設備として修繕義務の対象になりやすいです。一方、前入居者が置いていったエアコンや照明を「残置物」として使っている場合、貸主が修繕義務を負わない契約になっていることがあります。

次に、故障原因を確認します。古い給湯器の点火不良、エアコンの基板故障、水栓のパッキン劣化などは経年劣化の可能性があります。借主が通常どおり使っていたなら、修理費を請求されても、原因説明と見積書の提示を求めます。

反対に、借主負担になり得るのは、リモコンや付属品の紛失、説明書に反する使用、分解や改造、清掃不足が直接原因になった故障です。たとえばエアコンのフィルターを長期間清掃せず、異常を無視して使い続けた結果、内部故障や水漏れを招いた場合は争点になります。

自然災害の修繕費

台風、豪雨、地震などで建物が損傷した場合、借主の使い方とは関係がありません。屋根の破損、外壁からの雨水侵入、サッシの不具合、共用部の損傷は、貸主側で修繕するのが基本です。

ただし、借主が窓を開けたまま外出して室内が水浸しになった、ベランダ排水口を私物でふさいで浸水させた、避難や応急措置ができたのに放置した、といった事情があると借主負担が問題になります。自然災害そのものは借主の責任ではありませんが、被害拡大を防ぐ注意義務は残ります。

災害時は、危険がない範囲で写真を撮り、発生日時、天候、被害箇所、使用不能な設備を記録します。管理会社へは「自然災害による建物側の不具合として修繕をお願いします」と伝え、保険対応の有無も確認します。

共用部・共有設備の負担

共用部の修繕費は、借主個人が個別に払うものではありません。廊下や階段の照明、エントランスドア、集合ポスト、宅配ボックス、駐輪場、共用配管などは、貸主や管理会社が管理する範囲です。

借主が共用部設備を故意・過失で壊した場合は別です。引っ越し作業で共用廊下の壁を破損した、自転車を倒してガラスを割った、宅配ボックスを無理に開けて壊した場合は、借主または引っ越し業者の賠償責任が問題になります。

共用部の不具合に気付いたら、自分で業者を呼ぶ前に管理会社へ連絡します。安全に関わる場合は写真を添え、「共用廊下の照明が切れている」「階段手すりが外れかけている」と具体的に伝えます。

過大請求の見抜き方

修繕費の請求書で注意したいのは、「借主負担かどうか」と「金額が妥当か」は別問題だという点です。仮に借主に一部責任があっても、過大な範囲まで払う必要はありません。

まず、内訳のない「一式」請求は分解を求めます。部位、原因、数量、単価、借主負担割合が分からなければ検証できません。「水回り修繕一式8万円」では、何を直した費用か判断できません。

次に、全体交換になっていないかを見ます。小さな部品交換で足りるのに本体交換費用が請求されていないか、1か所の損傷で部屋全体の張替えになっていないかを確認します。クロスや床材は、退去時精算なら経過年数や補修範囲も問題になります。

さらに、経年劣化を無視していないかを見ます。古い設備を新品に交換する場合、借主が一部原因を作ったとしても、新品交換額を全額負担させるのは過大になり得ます。国交省ガイドラインの経過年数の考え方を参考に、残存価値や負担割合を確認します。

書面で拒否する手順とテンプレート

払わなくていい修繕費を請求されたら、電話で強く拒否するより、書面で整理して回答します。記録が残り、後の相談や交渉に使えるからです。

Step 1 内訳を求める

まずは次のように送ります。

「ご請求内容について確認したいため、修繕箇所、故障原因、作業内容、数量、単価、借主負担とする理由が分かる見積書または明細をご提示ください。現時点では内訳を確認できないため、支払い可否を判断できません。」

Step 2 貸主負担の根拠を示す

内訳を確認し、貸主負担と考える項目には根拠を付けます。

「給湯器故障については、入居時から設置されていた貸主設備であり、通常使用中の経年劣化による不具合と認識しています。民法606条の賃貸人の修繕義務に関する費用であり、借主負担とする根拠をご説明ください。」

Step 3 支払わない範囲を明確にする

一部だけ争う場合は、全体を拒否するのではなく、項目ごとに分けます。

「請求項目のうち、私の過失による○○補修費については協議に応じます。一方、エアコン本体交換費とクロスの日焼け補修費は、通常使用・経年劣化に基づく貸主負担と考えるため、現時点では支払いに応じられません。」

Step 4 相談先を使う

管理会社との話し合いが進まない場合は、消費生活センター(188)、自治体の法律相談、法テラスなどを使います。退去時の精算であれば少額訴訟が選択肢になることもあります。敷金返還の具体的な交渉は敷金返還請求テンプレートも参考になります。

まとめ

賃貸の修繕費を払わなくていい代表例は、貸主設備の自然故障、建物本体の劣化、配管や雨漏り、共用部、通常損耗・経年劣化です。借主が通常どおり使い、異常を発見した時点で通知していれば、貸主負担として整理しやすくなります。

一方、借主の故意・過失、使い方の誤り、報告遅れによる被害拡大は借主負担になり得ます。請求を受けたら、原因、内訳、特約、経年劣化、補修範囲を順に確認し、書面で回答してください。貸主の修繕義務そのものは賃貸の修繕義務はどこまで?で詳しく解説しています。

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出典・参考文献

よくある質問

賃貸で借主が払わなくていい修繕は?
借主が払わなくていい修繕は、経年劣化、通常使用による故障、貸主設備の自然故障、建物本体や共用部の不具合などです。民法606条は貸主の修繕義務を定め、民法621条も通常損耗と経年変化を原状回復義務から除いています。借主の故意・過失や放置がなければ、貸主負担として交渉できます。
エアコン故障の修理費は誰が払う?
入居時から備え付けられている貸主設備のエアコンが、通常使用中に古くなって故障した場合は貸主負担が基本です。フィルター清掃を怠って故障を招いた、借主が分解して壊した、リモコンを紛失したなど借主側の原因がある場合は借主負担になり得ます。契約書で設備か残置物かを確認してください。
雨漏り修繕費は借主負担?
屋根、外壁、窓周り、上階配管など建物側の原因による雨漏りは、通常は貸主負担です。借主が建物構造を管理できないためです。ただし、雨漏りを知りながら長期間連絡せず、床や壁、家財の被害を広げた場合は、拡大損害について借主の責任が問われることがあります。発見時点で写真を撮り、すぐ書面で通知します。
過大請求された場合の拒否方法は?
まず請求書の内訳を求め、部位、数量、単価、負担理由を確認します。通常損耗や経年劣化、貸主設備の自然故障が借主負担にされている場合は、民法606条、民法621条、国交省ガイドラインを根拠に書面で修正を求めます。感情的に拒否するのではなく、該当項目ごとに理由を書いて回答します。
ガイドラインに沿っているか確認する方法は?
国交省ガイドラインの別表1では、通常損耗・経年変化と借主負担になり得る損傷の例が部位別に整理されています。請求項目を、壁、床、水回り、建具、設備に分けて照合します。退去時の原状回復だけでなく、入居中の修繕費でも通常損耗や経年劣化を借主に転嫁していないかを見る基準として使えます。

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