フローリングの傷の補修費用 -- ガイドラインで見る借主負担と耐用年数

監修

賃貸リフォーム研究所 編集部

原状回復・退去費用の専門メディア

賃貸物件の原状回復・退去費用トラブルに関する正確な情報発信を行う編集チーム。国土交通省ガイドラインや民法の規定に基づき、退去者・管理会社双方の視点から解説記事を制作。

退去時にフローリングの傷を指摘され、「リペア費用」「床補修」「フローリング張替え」として退去費用を請求されることがあります。小さな傷なら数万円で済む一方、部屋全体の張替えになると10万円を超えることもあります。

ただし、フローリングの傷や変色がすべて借主負担になるわけではありません。国土交通省ガイドラインでは、通常使用による損耗や経年変化は貸主負担、借主の故意・過失や通常使用を超える損耗は借主負担という考え方が示されています。

さらにフローリングは、クロスやクッションフロアと違って耐用年数の扱いが特殊です。部分補修では経過年数を考慮しない一方、全面張替えでは建物の耐用年数に準じて残存価値を考えます。原状回復義務の基本は原状回復義務とはで整理していますが、この記事ではフローリングの傷に絞って、費用相場、補修方法、ガイドライン上の負担判定、耐用年数、計算例を確認します。

フローリング補修費用の相場

フローリングの退去費用は、補修で済むのか、床材を張り替えるのかで大きく変わります。まず、見積書の項目が「部分補修」「張替え」「重ね張り」のどれに当たるかを確認してください。単価水準はフローリング補修・張替えの単価相場でも整理しています。

工事内容費用目安退去精算での見方
小さな傷・凹みの部分補修1万〜3万円数箇所の線傷、へこみ、色抜けをリペアする
広範囲の部分補修3万〜6万円傷が多い場合や半日以上の作業になる場合
シミ・黒ずみの補修1.5万〜5万円水染み、変色、表面劣化の範囲で変わる
表面はがれ・めくれ補修2万〜5万円表面材の再接着、充填、着色が必要な場合
6畳程度の重ね張り8万〜13万円既存床の上に新しい床材を施工する
6畳程度の張替え10万〜20万円既存床の撤去、下地調整、新規施工を含む

小さな傷であれば、フローリング材を交換せず、樹脂やパテで埋めて木目を描き直すリペアで対応できることが多いです。

傷が部屋全体に散らばっている、表面材が大きくはがれている、水分で床材が膨れている、同じ床材が廃番で部分交換できないといった場合は、張替えや重ね張りが検討されます。ただし、工事として全面張替えを選ぶことと、その全額を借主負担にできることは別問題です。

原状回復ガイドラインのフローリング規定

国交省ガイドラインは、法律そのものではありませんが、退去時の原状回復費用を判断する実務上の重要な基準です。民法621条は、通常の使用で生じた損耗と経年変化を借主の原状回復義務から除外しています。ガイドラインは、その考え方を床、壁、建具、設備などの部位別に整理しています。

フローリングでは、ガイドライン別表3の床に関する整理が重要です。日照や建物構造に起因する色落ち、家具設置による通常のへこみは貸主負担になりやすく、引っ越し作業でついた引っかき傷や、借主の不注意で雨水が吹き込んだことによる色落ちは借主負担になり得ます。

区分ガイドライン上の考え方フローリングでの見方
貸主負担家具の設置による床のへこみ・設置跡通常の生活で避けにくい設置跡
貸主負担日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生した色落ち借主の管理では防ぎにくい経年変化
貸主負担通常使用による軽微な摩耗歩行、日常生活で生じる細かな擦れ
借主負担引っ越し作業などで生じた引っかき傷家具・家電の搬出入時の深い線傷
借主負担借主の不注意で雨が吹き込んだことによる色落ち窓を開けたままにした雨水被害
借主負担通常使用を超える使用による傷・汚損ペット傷、水分放置、重量物落下など

判断の出発点は「入居時より悪くなったか」ではありません。通常の使用や時間の経過で悪くなった部分まで、借主に戻す義務はありません。制度全体の耐用年数の見方は原状回復ガイドラインの耐用年数も参照してください。

貸主負担と借主負担の判定基準

フローリングの傷は、見た目だけでは負担者を決められません。同じ「床の変色」でも、日焼けなら貸主負担、窓を閉め忘れて雨が吹き込み変色したなら借主負担になり得ます。同じ「へこみ」でも、家具を普通に置いてできた設置跡なら貸主負担、重い物を落としてできた打痕なら借主負担になり得ます。

確認する順番は、原因、入居時からの有無、補修範囲、工法、耐用年数の5点です。特に重要なのは補修範囲です。傷が1箇所なのに、居室全体のフローリング張替え費用をそのまま借主負担にするのは、ガイドラインの考え方と合わない可能性があります。

一方で、キャスター傷、ペットの爪痕、水分による膨れが広範囲に及ぶ場合は、補修範囲が広がることがあります。この場合も、原因、範囲、工法、単価を明細で確認します。

補修方法ごとの特徴

フローリングの補修方法は大きく分けて、リペア、部分交換、重ね張り、張替えです。退去精算では「どの方法が工事として必要か」と「借主がどこまで負担するか」を分けて考えます。

リペア補修は、傷やへこみに樹脂・パテを充填し、周囲の色や木目に合わせて仕上げる方法です。小さな線傷、打痕、表面の色抜け、浅いはがれに向いており、借主の過失による小さな傷では、このリペア費用が借主負担の基本になります。

部分交換は、傷んだフローリング材を数枚単位で交換する方法です。床材自体が割れている、深くえぐれている、変形している場合に検討されます。既存材の廃番や色合わせで施工範囲が広がる場合でも、借主へ転嫁できるのは損傷と相当因果関係のある範囲が基本です。

重ね張りは、既存のフローリングの上から新しい床材を張る方法です。撤去費を抑えやすい一方、床の高さや建具との取り合いが変わります。退去費用として請求された場合は、なぜリペアや部分交換では足りないのかを確認してください。

張替えは、既存床を撤去して新しいフローリングを施工する方法です。床材の膨れ、腐食、広範囲の損傷、下地補修が必要な場合などに使われます。全面張替えの場合は、建物耐用年数に応じた経年劣化控除が問題になります。

フローリングの耐用年数と経年劣化控除

フローリングの耐用年数は、退去費用で誤解が出やすい部分です。クロスやクッションフロアは6年で残存価値1円となるように計算しますが、フローリングは同じ扱いではありません。詳しい部位別解説はフローリングの耐用年数で確認できます。

ガイドライン上、フローリングの部分補修は経過年数を考慮しない扱いです。理由は、フローリングが長期間使用される床材であり、小さな毀損部分を補修する場合は、その補修費用自体が損傷への直接対応だからです。たとえば入居10年でも、借主が家具を引きずって深い傷をつけ、その傷を2万円でリペアするなら、原則として2万円が借主負担になります。

一方、部屋全体を張り替える場合は、建物の耐用年数に準じて残存価値を考えます。

建物構造耐用年数の目安フローリング全面張替えでの見方
木造22年22年を基準に経過年数を控除
軽量鉄骨造27年構造に応じて木造より長く見る
鉄骨造34年中長期の残存価値を考慮
鉄筋コンクリート造47年減価が非常に緩やかになる

借主負担額の基本式を整理します。

借主負担額 = 借主負担対象の張替え費用 × (建物耐用年数 - 経過年数) ÷ 建物耐用年数

ここでいう経過年数は、入居年数や前回施工からの経過年数をもとに確認します。施工時期が不明な場合は、前回リフォーム記録や施工履歴の提示を求めると検証しやすくなります。

部分補修は経過年数を考慮しない

フローリングで特に重要なのが、部分補修の控除なしルールです。クロスのように「6年以上だから残存価値1円」とはなりません。小さな傷をリペアする費用は、経過年数による減額を前提にしないのがガイドライン上の整理です。

たとえば、入居8年の物件で、引っ越し時に冷蔵庫を引きずって深い線傷をつけたとします。リペア費用が25,000円で、補修範囲がその傷に限られているなら、25,000円が借主負担の目安になります。「8年住んだから床の価値はほとんどない」とは言い切れません。

ただし、部分補修の名目で過大な請求が出ることもあります。1箇所の傷なのに「床一式補修」とだけ書かれている、通常損耗の細かな擦れまでまとめて借主負担になっている、傷の写真と見積項目が対応していない場合は、内訳の確認が必要です。

部分補修は経過年数を考慮しない一方で、補修範囲は限定されるべきです。控除の有無と補修範囲の妥当性を混同しないことが重要です。

ケース別の負担判定

退去立会いで問題になりやすいフローリングの損耗を、ガイドラインの考え方に沿って整理します。最終的な判断は写真、入居時記録、契約内容、損傷範囲によって変わりますが、見積書を読むときの基準になります。

家具を引きずった傷

テーブル、ベッド、冷蔵庫、洗濯機などを引きずってできた深い線傷は、借主負担になりやすい損耗です。引っ越し業者の作業でついた傷でも、貸主との関係では借主側の退去作業に伴う損傷として扱われることがあります。まずは傷の長さ、深さ、箇所数を写真で確認し、リペアで足りるのか、部分交換が必要なのかを見ます。

水こぼしの放置

水、飲み物、観葉植物の受け皿、加湿器、結露水などを放置し、フローリングにシミ、黒ずみ、膨れ、めくれが出た場合は、借主負担になり得ます。こぼした直後に拭き取り、被害が残らなかった場合とは違い、長期間放置して床材が変形した場合は善管注意義務違反と見られやすくなります。

ペットの爪痕

犬や猫の爪による引っかき傷、走り回ったことによる広範囲の擦り傷、尿によるシミや臭いは、通常は借主負担です。ペット可物件でも、床を損傷させてよいという意味ではありません。ただし、ペット傷が一部屋全体に及ぶのか、出入口付近に限られるのかで補修範囲は変わります。

引っ越し時の打痕

家具や家電を落としてできたへこみ、角をぶつけてできた欠け、搬出入時の打痕は、借主負担になりやすい損傷です。小さな打痕ならリペアで対応できることがあります。床材が割れている、下地まで傷んでいる、歩行に支障がある場合は、部分交換や張替えが検討されます。

日焼けによる変色

窓際のフローリングが日照で色あせた場合は、原則として貸主負担です。日焼けは通常の生活で避けにくい経年変化であり、借主の過失とはいえません。家具を置いていた場所との色差が出ることもありますが、通常使用の範囲であれば借主負担にする根拠は弱くなります。

表面はがれ・ワックス劣化

ワックスの劣化、日常使用による艶の低下、古い床材の自然な表面劣化は、貸主負担が基本です。一方、粘着テープを貼って無理に剥がした、薬品をこぼした、キャスター付き椅子で同じ場所を強く擦り続けたなど、通常使用を超える原因がある場合は借主負担になり得ます。表面はがれは原因の切り分けが重要です。

費用シミュレーション

実際の退去費用では、先に負担区分と補修範囲を決め、そのうえで費用を計算します。フローリングは部分補修と全面張替えで計算方法が変わるため、見積書の工事項目ごとに確認してください。

例1: 入居3年、家具引きずり傷のリペア

引っ越し時にベッドを引きずり、床に長い線傷が2箇所ついたケースです。見積書のリペア費用は28,000円。傷は借主の過失によるもので、補修範囲も当該箇所に限られています。

この場合、部分補修なので経過年数は考慮しません。借主負担の目安は28,000円です。入居3年だから半額になる、という計算は通常行いません。

例2: 入居11年、木造住宅で全面張替え

広範囲の水分放置で床材が膨れ、6畳の張替え費用が180,000円とされています。木造住宅で、フローリングは入居時に新品だったとします。木造の建物耐用年数22年を使うと、計算は次のようになります。

180,000円 × (22年 - 11年) ÷ 22年 = 90,000円

全面張替えでは、経過年数分を控除して借主負担を考えます。見積書に180,000円全額が借主負担と書かれている場合は、建物耐用年数による控除が反映されているか確認します。

例3: 入居6年、RC造マンションで全面張替え

ペットの爪痕と尿染みが広範囲にあり、居室の張替え費用が200,000円とされています。鉄筋コンクリート造で耐用年数47年、入居6年の場合です。

200,000円 × (47年 - 6年) ÷ 47年 = 約174,000円

RC造では耐用年数が長いため、6年入居していても残存価値が大きく残ります。クロスなら6年で残存価値1円に近づきますが、フローリングは同じ計算になりません。壁紙の扱いとの違いは退去費用の壁紙請求はどこまで払うべきかも参考になります。

見積書で確認すべきポイント

フローリング補修費用の請求を受けたら、「床補修一式」「フローリング張替え一式」ではなく、原因、範囲、工法、単価が分かる内訳を確認します。

見るべき項目は、損傷原因、入居時からの有無、写真と補修範囲の対応、リペア・部分交換・重ね張り・張替えの別、建物構造と耐用年数、通常損耗の除外、材料グレードです。日焼けや家具設置跡は貸主負担が基本であり、そこに引っ越し傷が1箇所ある場合、借主負担はその傷の補修費用に限って検討します。

フローリング材の廃番や色合わせの都合で広く施工する場合でも、借主負担の説明には限界があります。管理会社へ「部分補修では対応できない理由」「借主負担にする範囲」「建物耐用年数による控除」を確認しましょう。

請求額が高いと感じたときの対処法

フローリングの退去費用に納得できない場合は、感覚的に高いと伝えるだけではなく、どの傷を借主負担としたのか、ガイドライン別表3のどの考え方に当たるのか、部分補修で足りない理由は何か、建物構造と耐用年数は何年で計算しているかを確認します。やり取りはメールや問い合わせフォームなど、記録が残る方法にしてください。

退去立会いの場で、精算書にすぐサインする必要はありません。写真、契約書、入居時チェックシート、精算書、見積書を持ち帰り、ガイドラインと照らして確認してください。協議が難しい場合は、消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談できます。

契約書に「フローリング補修費は借主負担」といった特約がある場合も、無条件にすべて有効とは限りません。通常損耗まで借主負担にする特約は、必要性、具体性、借主の認識と合意、消費者契約法10条との関係が問題になります。

まとめ

フローリングの傷の補修費用は、まず国交省ガイドラインに沿って、貸主負担か借主負担かを判定します。日焼け、家具の通常の設置跡、歩行による軽微な摩耗、ワックスの自然劣化は貸主負担が基本です。家具を引きずった傷、水分放置によるシミや膨れ、ペットの爪痕、引っ越し時の打痕は借主負担になり得ます。

借主負担に該当する場合でも、部分補修と全面張替えでは計算方法が違います。部分補修は経過年数を考慮しないため、リペア費用がそのまま借主負担になりやすい一方、全面張替えでは建物耐用年数に準じて残存価値を計算します。木造なら22年、鉄筋コンクリート造なら47年を基準にするため、クロスの6年耐用とは大きく異なります。

見積書では、原因、補修範囲、工法、単価、建物構造、耐用年数、通常損耗の除外を確認してください。傷が小さいのに部屋全体の張替え費用が請求されている場合や、日焼けまで借主負担に含まれている場合は、ガイドラインと民法621条の考え方を根拠に説明を求めることができます。

出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(2011年8月)、民法621条(賃借人の原状回復義務)、民法400条(善管注意義務)、民法622条の2(敷金)、消費者契約法10条、減価償却資産の耐用年数等に関する省令


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出典・参考文献

よくある質問

フローリングの傷の補修費用相場はいくらですか?
小さな傷や凹みの部分補修は1万〜3万円、広範囲の部分補修は3万〜6万円、シミや黒ずみの補修は1.5万〜5万円が目安です。6畳程度を張り替える場合は10万〜20万円程度になり、補修で済むか張替えになるかで金額が大きく変わります。見積書では「部分補修」「張替え」「重ね張り」のどれに当たるかを確認します。
フローリング補修では経過年数が考慮されますか?
部分補修では、ガイドライン上は経過年数を考慮しない扱いです。小さな毀損部分を直接リペアする費用だからです。一方、部屋全体を張り替える場合は、木造22年、鉄筋コンクリート造47年など建物耐用年数に準じて残存価値を考えます。入居年数や前回施工からの経過年数、施工履歴の有無も確認材料になります。見積書でも確認します。
フローリング傷が借主負担になる基準は何ですか?
日焼け、家具設置による通常のへこみ、歩行による軽微な摩耗、ワックスの自然劣化は貸主負担が基本です。反対に、家具を引きずった傷、水分放置によるシミや膨れ、ペットの爪痕、引っ越し時の打痕は、通常使用を超える損耗として借主負担になり得ます。判断では、原因、入居時からの有無、補修範囲を写真や記録と照合します。
フローリングの補修方法はどう選びますか?
見積書では、補修方法がリペア、部分交換、重ね張り、張替えのどれかを確認します。傷が一部なら部分補修で足りる可能性があり、床材の膨れ、腐食、広範囲の損傷、下地補修が必要な場合は張替えが検討されます。ただし工事として全面張替えを選ぶことと、その全額を借主負担にできることは別問題です。部分補修で足りない理由も確認します。
フローリング請求を確認するときのポイントは?
損傷原因、入居時からの有無、写真と補修範囲の対応、工法、単価、建物構造、耐用年数、通常損耗の除外を確認します。傷が小さいのに部屋全体の張替え費用が請求されている場合や、日焼けまで借主負担に含まれている場合は、ガイドラインと民法621条を根拠に説明を求めます。やり取りはメールなど記録が残る方法にします。

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