賃貸の退去手続きを時系列で解説 -- 解約通知から敷金精算までの全工程

監修

賃貸リフォーム研究所 編集部

原状回復・退去費用の専門メディア

賃貸物件の原状回復・退去費用トラブルに関する正確な情報発信を行う編集チーム。国土交通省ガイドラインや民法の規定に基づき、退去者・管理会社双方の視点から解説記事を制作。

賃貸物件の退去には、解約通知から敷金精算まで複数のステップがあります。手続きの順番を間違えたり期限を見落としたりすると、二重家賃が発生したり退去費用で不利な条件を受け入れてしまったりすることになりかねません。

この記事では、退去の全工程を時系列で整理しました。各ステップで「いつまでに」「何をすればいいのか」を具体的に示し、退去費用を不必要に膨らませないためのポイントもあわせて解説します。

退去手続きの全体像と所要期間

賃貸物件の退去は、大きく分けて「解約通知(1〜2ヶ月前)」「引越し準備(退去日まで)」「退去当日」「退去後の精算」の4段階で進みます。解約通知から敷金精算の完了まで、おおむね2〜3ヶ月を見ておくとよいでしょう。

以下が退去完了までの10ステップです。

ステップ時期の目安やること
1. 賃貸借契約書の確認退去を決めたらすぐ解約予告期間・違約金の有無を確認
2. 解約通知・退去届の提出退去日の1〜2ヶ月前管理会社・大家に書面で通知
3. ライフラインの手続き退去日の2週間前まで電気・ガス・水道・ネット回線の停止/移転
4. 各種届出退去日の14日前〜当日転出届・郵便転送・火災保険解約
5. 引越し準備退去日の1〜2週間前不用品処分・引越し業者手配
6. 退去前の掃除退去日の数日前〜当日水回り・換気扇・壁の汚れ落とし
7. 退去立会い退去日当日管理会社と室内の損耗を確認
8. 鍵の返却退去立会い時合鍵を含むすべての鍵を返却
9. 原状回復工事退去後1〜4週間管理会社側で実施(借主の関与なし)
10. 敷金精算・費用の支払い退去後1〜2ヶ月精算書の確認・振込

それぞれのステップを詳しく見ていきます。

ステップ1. 賃貸借契約書の確認

退去を決めたら、引越し業者の手配よりも先に賃貸借契約書を読み返してください。確認すべきポイントは3つあります。

1つ目は解約予告期間です。多くの賃貸借契約では「退去日の1ヶ月前まで」に通知することを求めていますが、物件によっては2ヶ月前や3ヶ月前と定められていることもあります。予告期間を守らないと、通知日から1ヶ月分(または契約に定められた期間分)の家賃が発生します。

2つ目は短期解約違約金の有無です。「入居から1年以内の解約は違約金として家賃1ヶ月分を支払う」といった条項が含まれているケースがあります。フリーレント(一定期間の家賃免除)を受けた物件では、短期解約時にフリーレント分を返還する条項が設定されていることもあります。

3つ目は退去月の家賃計算方法です。日割り計算・月割り計算・半月割りのいずれかが契約書に記載されています。月割り計算の物件で月初に退去しても1ヶ月分の家賃が発生するため、退去日の設定に影響します。

ステップ2. 解約通知・退去届の提出

契約内容を確認したら、管理会社または大家に退去の意思を伝えます。まず電話やメールで連絡し、そのうえで退去届(解約通知書)を書面で提出する流れが一般的です。

退去届には、退去予定日、現住所、連絡先、転居先住所(敷金返還先として必要)を記入します。管理会社が指定のフォームを用意している場合はそれを使い、指定がなければ上記の情報を記載した書面を郵送またはメールで送付します。

解約予告期間の起算日は「退去届が届いた日」とされることが多い点に注意してください。電話で退去の意思を伝えただけでは起算されず、書面の到着日からカウントされる場合があります。起算日の認識がずれると、予定していた退去日に間に合わず余計な家賃が発生します。確実を期すなら、電話連絡と同日にメールでも退去届を送付し、送信記録を残しておくと安心です。

ステップ3. ライフラインの手続き

退去届を出したら、電気・ガス・水道・インターネット回線の停止手続き(または転居先への移転手続き)を進めます。手続きの目安は退去日の2週間前までです。

電気と水道はWebまたは電話で手続きでき、退去日当日まで使用して停止するのが一般的です。退去当日の掃除に水道を使うため、掃除が終わるまで止めないようにしてください。ガスは閉栓の立会いが不要なケースが増えていますが、事業者に確認しておくと安心です。

インターネット回線は、解約に1ヶ月以上かかる事業者があります。特に光回線の撤去工事が必要な物件では、退去日までに工事が間に合わず管理会社とトラブルになる事例があるため、早めの連絡をおすすめします。

ステップ4. 各種届出(転出届・郵便転送・火災保険)

市区町村役場への転出届は、転出予定日の14日前から提出できます(住民基本台帳法22条)。転出届を出すと「転出証明書」が発行されるため、転居先の市区町村で転入届を出す際に必要です。同一市区町村内の引越しの場合は「転居届」を転居後14日以内に提出します。

郵便物の転送届は、郵便局の窓口またはe転居(Web)から手続きできます。届出日から1年間、旧住所宛の郵便物が転居先に転送されます。退去後に届く精算書や各種通知を受け取れなくなるのを防ぐため、退去前に手続きを済ませておきましょう。

火災保険(家財保険)の解約も忘れやすい手続きです。賃貸借契約に付帯して加入した火災保険は、退去と同時に自動解約されるわけではありません。保険会社に連絡して解約手続きを行えば、未経過期間分の保険料が返金されます。

ステップ5. 引越し準備と不用品の処分

引越し業者の手配は、退去日が決まったらできるだけ早く行ってください。3月〜4月の繁忙期は予約が埋まりやすく、直前の手配では希望日を確保できないことがあります。

不用品や粗大ゴミの処分は引越し日より前に完了させておく必要があります。自治体の粗大ゴミ回収は申し込みから回収まで1〜2週間かかるのが一般的です。退去日に間に合わなければ、不用品が室内に残った状態で退去立会いを迎えることになり、残置物の撤去費用を請求される原因になります。

入居時に撮影した部屋の写真があれば、退去立会いの際に役立ちます。入居前からあった傷や汚れを証明する材料になるため、スマートフォンに残っていないか確認しておいてください。

ステップ6. 退去前の掃除

退去前の掃除は、退去費用を抑えるうえで効果の大きいステップです。退去後にはハウスクリーニングが入りますが、借主が落とせる汚れを事前に対処しておくことで、「借主の過失による汚損」と判定される範囲を減らせます。

掃除の優先度が高い箇所は、キッチンの油汚れ(換気扇・コンロ周り)、浴室のカビ、トイレの水垢・黄ばみ、壁のヤニ汚れや手垢です。これらは退去立会いで指摘されやすく、クリーニング費用に上乗せされやすいポイントです。

一方、壁紙の日焼けや家具の設置跡(カーペットのへこみなど)は通常損耗にあたり、借主が負担する必要はありません。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の使用による損耗は貸主負担と定めています。通常損耗と借主負担の区分については、国交省ガイドライン解説で詳しくまとめています。

なお、契約書に「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担」とする特約がある場合、自分で掃除をしてもクリーニング費用は免除されません。ただし、汚れがひどい場合は通常のクリーニング費用に追加料金が加算されることがあるため、掃除をしておいて損はありません。クリーニング特約の有効性と対処法についてはクリーニング特約の解説記事を参照してください。

ステップ7. 退去立会い

退去立会いは、退去の全工程のなかで最も退去費用に直結するステップです。管理会社の担当者と一緒に室内を回り、壁・床・天井・水回り・設備の損耗状態を確認します。所要時間は30分〜1時間程度が目安です。

退去立会いで押さえておくべきポイントを整理します。

立会い前に、部屋全体の写真を撮影しておいてください。退去時点の室内状態を記録として残すことで、のちに「退去後に追加の損傷が見つかった」と言われた場合の反証になります。

立会い中、管理会社の担当者が各箇所の損耗を「借主負担」「貸主負担」に振り分けていきます。このとき、通常損耗(日焼け、画鋲の穴、家具の設置跡など)が借主負担にされていないか注意してください。指摘に疑問を感じた場合は、その場で質問して認識をすり合わせることが大切です。

退去立会いの終了時に「確認書」や「退去時チェックシート」へのサインを求められることがあります。この書面は、損耗の内容と費用負担の区分を確認したという意味を持ちます。内容に納得できない箇所がある場合は、サインを急がず「確認したい点があるので精算書が届いてから回答します」と伝えてください。その場でサインしなかったことで不利益を受ける法的根拠はありません。

退去立会いで管理会社がチェックする項目の詳細は退去立会いチェックリストにまとめています。管理会社向けの記事ですが、借主側が「何をチェックされるのか」を事前に知っておくことで、立会いを有利に進められます。

ステップ8. 鍵の返却

退去立会いの最後に、部屋の鍵をすべて返却します。入居時に受け取ったオリジナルキーだけでなく、自分で作成した合鍵もすべて含まれます。合鍵を紛失した場合は鍵の交換費用を請求されることがあるため、退去前に本数を確認しておきましょう。

鍵の返却をもって物件の引き渡しが完了し、以降は室内に入ることができなくなります。忘れ物がないか、鍵を渡す前に最終確認してください。

ステップ9. 原状回復工事

退去立会いが終わると、管理会社が手配する業者によって原状回復工事が行われます。この段階で借主が直接関与することはありませんが、工事の内容と費用は精算書に反映されるため、間接的に負担額に影響します。

原状回復の範囲は「借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」に限られます(民法621条)。通常損耗や経年劣化の修繕は貸主の負担であり、次の入居者のためのグレードアップ工事も借主に請求することはできません。

各部位の負担割合の考え方は原状回復の負担割合ガイドで詳しく解説しています。

ステップ10. 敷金精算・費用の支払い

退去後1〜2ヶ月を目安に、管理会社から精算書が届きます。敷金を預けていた場合は原状回復費用・ハウスクリーニング費用を差し引いた残額が返金され、敷金を超える費用が発生していた場合は差額を追加で支払います。

精算書が届いたら、以下の点を確認してください。

各項目の単価が相場から大きく乖離していないか。たとえば、クロス張替えの単価は1,000〜1,500円/m2が一般的な目安です。単価が2,000円/m2を超えている場合は、内訳の説明を求めてもよいでしょう。

経年劣化控除が反映されているか。クロス(壁紙)の耐用年数は6年、カーペットは6年、フローリングは建物の耐用年数に準じます(国交省ガイドライン別表2)。入居年数に応じた控除が反映されていなければ、減額を求める根拠になります。経年劣化控除の計算方法は負担割合の解説記事で詳しく説明しています。

通常損耗が借主負担に含まれていないか。日焼けや画鋲の穴、家具の設置跡は貸主負担です。精算書にこれらの項目が含まれていたら、国交省ガイドライン解説を根拠にして修正を求めることができます。

精算書の内容に疑問がある場合の交渉方法は退去費用の交渉ガイドを参照してください。

退去費用を抑えるための3つのポイント

退去の流れ全体を通じて、費用を不必要に増やさないためのポイントを3つにまとめます。

入居時の記録を残しておく

入居直後に部屋の状態を写真や動画で記録しておくことは、退去時の最大の保険です。入居前からあった傷や汚れを証明できれば、退去立会いで「入居前からこの傷はありました」と主張する根拠になります。これから入居する方はもちろん、現在入居中の方も、今の時点で室内の状態を記録しておくことをおすすめします。

精算書の内訳を1項目ずつ確認する

精算書が届いたら、「合計金額」だけでなく内訳の各項目を確認してください。一式表記で明細がない場合は、部位別・単価別の内訳を出してほしいと管理会社に依頼する権利があります。明細があれば、経年劣化控除の未反映や通常損耗の混入を発見できます。

敷金が返還されない場合は相談窓口を活用する

敷金から差し引かれた金額に納得がいかない場合、まずは管理会社にガイドラインを根拠にして交渉してみてください。それでも解決しない場合は、消費生活センター(消費者ホットライン 188)に相談できます。敷金返還請求の具体的な手順は敷金が返ってこないときの対処法で解説しています。60万円以下の返還請求であれば少額訴訟も選択肢に入ります。詳しくは少額訴訟ガイドを参照してください。

よくある質問

退去の連絡は電話だけでも有効?

管理会社によって対応が異なります。電話で退去の意思を伝えること自体は有効ですが、解約予告期間の起算日は「書面(退去届)の到着日」とする契約が多いです。電話連絡後にすみやかに退去届を提出し、提出日の記録を残しておくことが大切です。

退去立会いに行けない場合はどうなる?

退去立会いに出席できない場合、代理人を立てることが可能です。ただし、本人不在の状態で管理会社が一方的に損耗を判定すると、納得のいかない費用を請求されるリスクがあります。できる限り本人が立ち会い、難しければ信頼できる代理人に依頼してください。

退去日は月末がいい?月初がいい?

退去月の家賃計算方法によって変わります。日割り計算の物件であれば、退去日をできるだけ早めることで家賃を抑えられます。月割り計算の物件では、いつ退去しても1ヶ月分の家賃が発生するため、月末まで使い切るほうが合理的です。契約書の家賃計算方法を確認したうえで判断してください。

退去後に追加の修繕費用を請求されることはある?

退去立会いで確認されなかった損耗について、あとから追加請求されるケースがまれにあります。しかし、退去立会い時に確認書に記載されなかった損耗を事後的に請求することは、借主側に不利な慣行です。追加請求に納得できない場合は、退去立会い時の確認書や写真を根拠にして反論できます。

出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(2011年8月)、民法621条(賃借人の原状回復義務)、民法622条の2(敷金)、住民基本台帳法22条


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出典・参考文献

よくある質問

賃貸の退去手続きはどのような流れですか?
退去は、契約書確認、解約通知・退去届の提出、ライフラインや各種届出、引越し準備、退去前清掃、退去立会い、鍵の返却、原状回復工事、敷金精算という順番で進みます。全体では、解約通知から敷金精算の完了まで2〜3ヶ月を見ておくと安心です。順番や期限を誤ると、二重家賃や残置物撤去費用が発生することがあります。
解約通知や退去届はいつ出しますか?
解約通知は契約書の解約予告期間に従います。一般的には退去日の1〜2ヶ月前に、管理会社や大家へ連絡し、退去届を提出します。電話だけでは起算されず、書面の到着日から数える契約も多いため、メールや郵送で提出記録を残しておくことが大切です。退去届には退去予定日、現住所、連絡先、転居先住所を記入します。指定フォームも確認します。
退去立会いでは何を確認しますか?
退去立会いでは、管理会社の担当者と室内を回り、壁、床、天井、水回り、設備の損耗状態を確認します。所要時間は30分〜1時間程度です。日焼け、画鋲穴、家具の設置跡など通常損耗が借主負担にされていないか、その場で確認します。納得できない確認書には急いでサインせず、精算書が届いてから回答すると伝えます。写真も残します。
退去前にチェックすべきことは何ですか?
契約書、退去届、ライフライン停止、転出届、郵便転送、火災保険、不用品処分、退去前清掃、入居時写真、鍵の本数を確認します。掃除ではキッチンの油汚れ、浴室のカビ、トイレの水垢、壁のヤニ汚れや手垢など、立会いで指摘されやすい箇所を優先します。粗大ゴミは回収まで1〜2週間かかることがあるため、早めに手配します。
退去後の精算トラブルはどう対処しますか?
退去後1〜2ヶ月を目安に精算書が届いたら、合計金額だけでなく内訳、単価、経年劣化控除、通常損耗の混入を確認します。納得できない場合は、退去立会い時の確認書や写真、国交省ガイドラインを根拠に交渉します。一式表記で明細がない場合は、部位別・単価別の内訳を求めます。解決しなければ消費生活センターや少額訴訟も選択肢です。

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