退去が決まると気になるのが「退去費用はいつ、いくら払うことになるのか」という点です。引っ越し費用や新居の初期費用など、退去前後は出費が重なります。退去費用の支払い時期をあらかじめ把握しておけば、資金繰りに余裕を持てます。
結論から言えば、退去費用の支払い時期は退去日から1〜2ヶ月後が一般的です。ただし、敷金を預けているかどうか、管理会社の精算スピード、追加請求の有無によって前後します。
この記事では、退去通知から精算完了までの流れを時系列で整理し、敷金がある場合とない場合それぞれの支払いパターン、支払い方法の選択肢、支払いが遅れた場合のリスクまでを解説します。
退去通知から精算完了までの時系列
退去費用が確定し、実際に支払い(または敷金からの返金)が行われるまでには、いくつかのステップがあります。全体の流れを時系列で見ていきましょう。
1. 退去通知(退去日の1〜2ヶ月前)
賃貸借契約書には「解約予告期間」が定められています。多くの物件では退去日の1ヶ月前までに通知すれば足りますが、契約によっては2ヶ月前の通知が必要です。契約書の「解約」「退去」に関する条項を確認してください。
退去通知は管理会社の指定する方法(電話・書面・Web)で行います。退去通知の受領確認が取れた日が起算日になるため、口頭のみではなく書面やメールでも記録を残しておくのが安心です。
2. 退去日の準備と引っ越し
退去通知後、退去日までに荷物の搬出、ライフライン(電気・ガス・水道)の解約手続き、郵便物の転送届を済ませます。
退去費用を抑えるうえで意識しておきたいのが、退去前の掃除です。キッチンの油汚れ、浴室のカビ、換気扇のホコリなど、日常的な清掃で落とせる汚れは退去前に対応しておきましょう。清掃状態がよければ、ハウスクリーニング以外の追加清掃費用を請求されるリスクが下がります。
3. 退去立ち会い(退去日当日)
荷物の搬出が完了した状態で、管理会社の担当者と一緒に室内を確認します。壁・床・天井・水回り・設備の状態をチェックし、入居時からあった傷と退去時に確認された傷を区別します。
立ち会い時に確認しておくべきことは3点あります。
- 損耗箇所の確認 --- どの部分が借主負担の対象になるのか、その場で指摘を受けた箇所を写真に撮っておく
- 修繕範囲の合意 --- クロス張替えは「一面」か「全面」か、フローリングは「部分」か「全面」かの認識を共有する
- 精算書の送付時期 --- 「精算書はいつ届きますか」と聞いておく。目安の回答を得られれば、届かない場合の催促もしやすくなる
なお、立ち会い時にその場でサインを求められることがありますが、金額が記載された書面にサインする場合は内容を慎重に確認してください。納得できない項目があれば、「持ち帰って確認させてほしい」と伝えることは問題ありません。
4. 精算書(退去費用の明細)の到着(退去後2週間〜1ヶ月)
退去立ち会い後、管理会社がリフォーム業者に見積もりを取り、精算書を作成します。精算書が届くまでの期間は、管理会社によって差がありますが、2週間〜1ヶ月が目安です。
精算書には、修繕費用の内訳(部位・数量・単価)、ハウスクリーニング費用、敷金との相殺結果が記載されます。敷金を預けている場合は「敷金 - 退去費用 = 返金額(または追加請求額)」の計算結果が示されます。
退去から1ヶ月を過ぎても精算書が届かない場合は、管理会社に問い合わせてください。精算が遅れている理由(繁忙期、リフォーム業者の見積もり待ち等)を確認し、いつまでに届くのか具体的な期日を聞いておきましょう。
5. 退去費用の支払い(精算書到着後2週間〜1ヶ月)
精算書に記載された支払い期限までに、指定された方法で支払います。精算書到着から支払い期限までの猶予は、2週間〜1ヶ月が一般的です。
つまり、退去日から数えると「退去後2週間〜1ヶ月で精算書が届き、そこから2週間〜1ヶ月が支払い期限」となるため、退去日から支払いまでの期間は概ね1〜2ヶ月です。
退去後の精算スケジュール
退去後の流れだけを切り出すと、支払い時期はより把握しやすくなります。退去日は、鍵を返却し、室内を明け渡した日です。この時点で賃貸借契約上の明渡しが完了し、管理会社は室内確認と原状回復見積もりの手配に入ります。立ち会いがある場合は当日に損耗箇所を確認し、立ち会いがない場合は退去後に管理会社や貸主側で確認します。
退去後1〜2週間は、立ち会い結果や室内写真をもとに、リフォーム業者の見積もりを取る期間です。繁忙期や補修範囲が広い物件では、見積もり取得だけで2週間以上かかることもあります。退去後2週間〜1ヶ月ほどで、精算書または請求書が届くのが一般的です。精算書には、ハウスクリーニング費用、クロス張替え、床補修、鍵交換などの項目と、敷金の充当結果が記載されます。
支払い期限は請求書に記載され、到着後1〜2週間程度に設定されることが多いです。敷金返還がある場合は、退去から1〜2ヶ月後がひとつの目安ですが、契約書で「退去後○日以内」と定められていれば、その記載を確認します。1ヶ月を過ぎても精算書が届かない場合は、管理会社に「精算書の発行予定日」と「返還または追加請求の見込み」をメールで確認しておくと、後の催促がしやすくなります。
支払い前に確認する書類
退去費用は、請求書が届いたらすぐ払えばよいとは限りません。支払い前に、賃貸借契約書、退去立ち会い時の確認書、精算書、工事見積書、損耗箇所の写真をそろえて見比べます。契約書ではハウスクリーニング特約、短期解約違約金、鍵交換費用、敷金の返還時期を確認します。精算書では「一式」表記だけでなく、部位、数量、単価、借主負担割合が分かるかを見てください。
見積書に経年劣化控除が入っていない、通常損耗が借主負担になっている、立ち会いで指摘されていない項目が後から追加されている場合は、支払い前に説明を求めます。支払い後でも返金交渉はできますが、管理会社側の処理が完了してからの修正は時間がかかります。疑問点があるときは、支払い期限前にメールで「この項目の根拠を確認してから支払いたい」と伝え、回答期限も書いておくと交渉が進めやすくなります。具体的な文面は退去費用の交渉方法ガイドを参考にしてください。
敷金がある場合の精算フロー
入居時に敷金を預けている場合、退去費用は敷金から差し引かれます。この場合の支払いパターンは3つに分かれます。
敷金 > 退去費用の場合(差額が返金される)
退去費用より敷金のほうが多ければ、差額が返金されます。たとえば敷金10万円で退去費用が4万円なら、6万円が返金されます。
返金時期は精算書の発行後1〜2ヶ月が一般的です。ただし、管理会社によっては退去後2〜3ヶ月かかることもあります。賃貸借契約書に「精算は退去後○ヶ月以内に行う」と明記されていれば、その期限が基準になります。
なお、敷金返還にかかる法的な期限について、民法には明確な規定がありません。ただし、最高裁判例(平成14年3月28日)では、敷金返還債務は「賃貸物の返還を受けた時に発生する」と示されています。退去後、合理的な期間を超えても返金がない場合は管理会社に催促してください。
敷金が返ってこない場合の対処法は敷金が返ってこないときの対処法で解説しています。
敷金 < 退去費用の場合(不足分を追加で支払う)
退去費用が敷金を上回った場合、差額を追加で支払います。敷金5万円で退去費用が12万円なら、不足分の7万円が請求されます。
この追加請求分の支払い期限は精算書に記載されています。一般的には精算書到着後2週間〜1ヶ月以内です。
敷金 = 退去費用の場合(精算完了)
退去費用と敷金が同額であれば、返金も追加支払いもなく精算完了です。精算書で金額の内訳を確認し、問題なければ手続きは終了します。
敷金充当の流れ
敷金は、民法622条の2で、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生じる借主の金銭債務を担保する目的で貸主に交付する金銭と定められています。退去時には、未払い家賃や借主負担の原状回復費用があれば敷金から差し引かれ、残額が借主へ返還されます。
精算の考え方は単純です。敷金が退去費用以上なら、差額が借主に返還されます。敷金10万円、借主負担の退去費用4万円なら、返還額は6万円です。反対に、敷金が退去費用より少なければ、不足分を借主が追加で支払います。敷金5万円、退去費用8万円なら、追加支払いは3万円です。
敷金充当後の返還タイミングは、一般的に退去から1〜2ヶ月が目安です。ただし、民法は具体的な日数までは定めていません。契約書に返還時期が書かれている場合はその期限を確認し、期限を過ぎても返金がない場合は、精算書と振込予定日を管理会社へ確認してください。敷金返還の計算は敷金 返ってくるで詳しく解説しています。
敷金なし物件の精算フロー
敷金ゼロ(ゼロゼロ物件等)の場合、退去費用の全額を自己負担で支払うことになります。敷金からの相殺がないため、まとまった出費への備えが必要です。
敷金なし物件では、入居時の契約内容を事前に確認しておくことが特に重要です。ハウスクリーニング費用の定額特約、鍵交換費用の借主負担、短期解約違約金など、契約書に記載された条件がそのまま退去費用に反映されます。
敷金なし物件の退去費用について詳しくは敷金なし物件の退去費用ガイドをご覧ください。
精算書の内容を確認するポイント
精算書が届いたら、支払う前に内容を確認してください。確認すべきポイントは4つあります。
部位別・単価別の明細があるか
「原状回復費用 一式 ○万円」としか書かれていない場合は、管理会社に部位別・単価別の明細を請求してください。一式表記では費用の妥当性を判断できません。
経年劣化控除が反映されているか
国土交通省ガイドラインでは、建物や設備の経年劣化分は貸主が負担するものとしています。クロス(壁紙)の耐用年数は6年。入居4年で退去した場合、クロスの残存価値は約33%です。張替え費用が全額請求されていたら、経年劣化控除の適用を求めてください。
経年劣化控除の計算方法は原状回復の負担割合ガイドで解説しています。
通常損耗が含まれていないか
日焼けによるクロスの変色、家具の設置跡、画鋲やピンの穴など、通常の生活で生じる損耗は貸主負担です(国交省ガイドライン別表1)。これらが借主負担として請求されていないか確認してください。
通常損耗と借主負担の区分けは国交省ガイドライン解説にまとめています。
特約の内容が有効か
ハウスクリーニング特約や鍵交換費用の借主負担特約は、条件を満たせば有効です。ただし、最高裁判例(平成17年12月16日)では、特約が有効となるためには「暴利的でないこと」「借主が内容を理解して合意していること」が求められるとされています。
特約の金額が相場から著しく乖離している場合は、交渉の余地があります。
退去費用の支払い方法
退去費用の支払い方法は管理会社によって異なります。
支払い方法の選択肢
退去費用の支払いは、精算書や請求書に記載された方法で行います。最も一般的なのは銀行振込です。振込手数料は借主負担とされることが多いため、請求書の注意書きを確認し、振込明細やネットバンキングの受付画面を保存しておきます。支払った事実を後から示せる記録が残る点でも、銀行振込は扱いやすい方法です。
管理会社の窓口で現金支払いを受け付ける場合もあります。この場合は、必ず領収書を受け取ってください。担当者名、支払日、金額、対象物件、支払い項目が分かる領収書でなければ、後日「未払い」と扱われたときに反論しにくくなります。家賃と同じ口座からの自動引き落としに対応する管理会社もありますが、退去後は口座振替契約が止まることもあるため、引き落とし日と金額を事前に確認します。
一部の管理会社ではクレジットカード払いに対応しています。ポイント還元を受けられるメリットはありますが、カード会社の分割払いやリボ払いを使うと手数料が発生します。高額で一括払いが難しい場合は、管理会社に分割払いを相談する方法もあります。合意できたら、支払総額、毎月の支払額、支払日、遅れた場合の扱いを書面やメールで残してください。
銀行振込
最も一般的な方法です。精算書に記載された口座に振り込みます。振込手数料は借主負担の場合が多いため、精算書で確認してください。振込後は明細を保管しておきましょう。
敷金からの相殺
前述のとおり、敷金を預けている場合は退去費用と相殺されます。追加の手続きは不要ですが、精算書の内訳は必ず確認してください。
クレジットカード払い
管理会社によってはクレジットカード払いに対応しています。カード会社の分割機能を利用すれば月々の負担を分散できますが、分割手数料(年利12〜15%前後)がかかる点に注意してください。
分割払い(管理会社との交渉)
退去費用が高額で一括払いが難しい場合、管理会社に分割払いを相談することも可能です。法的な制度ではありませんが、管理会社との合意があれば分割に応じてもらえるケースは少なくありません。月々の支払額と期間を具体的に提示し、合意内容は書面で残しておいてください。
退去費用の支払いが難しい場合の選択肢は退去費用が払えないときの対処法で詳しく解説しています。
支払いが遅れた場合のリスク
退去費用の支払い期限を過ぎた場合、放置するほど不利な状況になります。
遅延損害金の発生
支払い期限の翌日から遅延損害金が発生します。法定利率は年3%(民法第404条)ですが、契約書に別途利率が定められている場合はそちらが適用されます。
督促と内容証明郵便
支払い期限を過ぎると管理会社から電話やメールで督促が届きます。それでも対応しない場合、弁護士名義の内容証明郵便が届くことがあります。内容証明は裁判の証拠として使われるため、届いた段階で速やかに対応してください。
保証会社による代位弁済
保証会社を利用している場合、管理会社が保証会社に立替を請求することがあります。保証会社が代位弁済を行うと、信用情報機関(JICC・CIC)に事故情報として記録される可能性があり、完済後5年間はクレジットカードの新規作成やローン審査、次の賃貸契約の保証審査に影響します。
法的手続き
最終的には少額訴訟(60万円以下の場合)や支払督促といった法的手続きに発展する可能性があります。支払督促は2週間以内に異議を申し立てなければ強制執行が可能になります。
支払いが困難な場合でも、放置だけは避けてください。管理会社に連絡し、分割や支払い時期の延長を相談するだけで、法的手続きに至るリスクは大きく下がります。
未払い時のリスクと時効
退去費用の請求を放置しても、すぐに消えるわけではありません。民法166条では、一般的な金銭債権について、権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかるとされています。退去費用が賃貸借契約に基づく原状回復費用や未払い家賃の精算として請求されている場合、5年が時効期間の目安になります。
一方、故意・過失による毀損について不法行為に基づく損害賠償として請求される場合は、民法724条により、損害および加害者を知った時から3年が時効期間の目安です。ただし、どちらの構成で請求されるかは事案によって変わります。時効を理由に支払いを拒む前に、請求書の根拠、契約書、損耗写真、見積書を確認してください。
督促を放置すると、電話やメールの督促に続き、内容証明、支払督促、少額訴訟へ進む可能性があります。判決や支払督促が確定すると、給与や預金への強制執行につながることもあります。連帯保証人や家賃保証会社へ並行して請求される場合もあるため、払えないときほど早めに連絡し、分割や期限延長を相談してください。具体的な対応は退去費用 払えないで整理しています。
退去費用に納得できないときの対処法
精算書の金額に疑問がある場合は、支払い前に確認と交渉を行ってください。
交渉は「項目単位」で行うのが原則です。「全体的に高い」ではなく、「この壁紙張替えに経年劣化控除が反映されていない」「この家具の設置跡は通常損耗に該当する」と、1つずつ具体的に指摘してください。
やり取りはメールなど記録が残る方法で行いましょう。電話のみのやり取りは「言った・言わない」の争いになりやすく、後の手続きで不利になります。
交渉の進め方は退去費用の交渉方法ガイドで詳しく解説しています。
自分だけで交渉するのが難しい場合は、消費生活センター(消費者ホットライン 188)に相談してください。退去費用を含む賃貸トラブルは年間13,000件以上の相談実績がある分野で、請求額の妥当性や交渉方法について具体的なアドバイスを受けられます。金額が大きい場合は、法テラス(0570-078374)で弁護士への無料相談を利用する方法もあります。
出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(2011年8月)、民法第400条(善管注意義務)、民法第404条(法定利率)、民法第621条(賃借人の原状回復義務)
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出典・参考文献
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」案内ページ: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html
- 国土交通省 ガイドライン本文PDF: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
- 民法(e-Gov 第621条 賃借人の原状回復義務): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民法(e-Gov 第166条 債権等の消滅時効、第622条の2 敷金、第724条 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 国土交通省 別表第2(経過年数による負担割合の参考図): https://www.mlit.go.jp/common/001016469.pdf
- 国税庁 No.2100 減価償却のあらまし: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/2100.htm
- 国民生活センター 賃貸住宅退去時のトラブル相談事例(2021年7月公表): https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20210701_1.html
- 国民生活センター 全国の消費生活センター一覧(消費者ホットライン188案内): https://www.kokusen.go.jp/map/
- 法テラス(日本司法支援センター): https://www.houterasu.or.jp/
- 消費者庁「もっと知りたい契約のキホン」: https://www.no-trouble.caa.go.jp/