店舗の原状回復費用の相場 -- 業種別の坪単価と管理会社向け実務ガイド

店舗物件の原状回復は、住居用とは費用の桁が異なります。住居の原状回復が数万円〜十数万円で収まるのに対し、店舗では数十万円から数百万円規模になることが珍しくありません。業種によって内装の造作や設備の規模が異なるため、坪単価の幅も大きく開きます。

店舗物件を管理するビルオーナーや管理会社が、テナント退去時の原状回復費用を適正に見積もり、業者を選定するための判断基準を整理します。

店舗原状回復と住居用原状回復の違い

店舗の原状回復と住居の原状回復には、費用以外にも根本的な違いがあります。

国交省ガイドラインの適用範囲が異なること。国交省の原状回復ガイドラインは主に住居用賃貸を対象としており、店舗・事業用物件には直接適用されません。店舗の原状回復範囲は、賃貸借契約書の特約条項によって個別に定められます。住居用のように「通常損耗は貸主負担」という原則がそのまま当てはまるわけではない点に注意が必要です。

原状回復の範囲が広いこと。住居はクロス・床・クリーニングが中心ですが、店舗では内装造作の撤去、厨房設備の撤去、電気・ガス・給排水の配管工事、看板の撤去など、建物の躯体に手を加えた部分すべてが対象になり得ます。テナントがスケルトン(コンクリート打ちっぱなし)の状態から内装を施した物件では、入居前の状態に戻すために大規模な解体工事が必要です。

工事期間が長いこと。住居の原状回復が数日で完了するのに対し、店舗では2〜4週間かかることがあります。飲食店の厨房設備撤去やグリストラップの清掃・撤去を含む場合は、1ヶ月を超えるケースもあります。退去日から次のテナント誘致開始までのスケジュールを逆算して、工事着手のタイミングを設計する必要があります。

事業用物件と住居用の原状回復違い

店舗原状回復を考えるうえで最初に押さえるべき点は、事業用物件と住居用物件では前提が異なることです。住居用賃貸では、国土交通省の原状回復ガイドラインが実務上の基準として広く使われます。通常損耗や経年劣化は貸主負担、借主の故意・過失による損傷は借主負担という整理が基本です。

一方、店舗やオフィスなどの事業用物件には、同ガイドラインが直接適用されるわけではありません。事業者同士の契約では、賃貸借契約書の特約が原則になります。店舗では「スケルトン状態で返還する」「造作・設備をすべて撤去する」「貸主指定業者で施工する」といった特約が置かれやすく、住居用より借主負担が大きくなる傾向があります。

経年劣化の扱いも違います。住居用ではクロスや床材の耐用年数を踏まえて負担割合を下げる考え方が一般的ですが、店舗では契約書に「経年劣化を問わず借主が原状回復する」と読める条項があると、契約解釈に依存します。2020年4月施行の改正民法621条は、通常損耗・経年変化を除く損傷について賃借人の原状回復義務を定めていますが、事業用契約の具体的な負担範囲は特約の記載が重要です。

そのため、店舗では「入居時状態への完全復元」が求められやすくなります。退去交渉では、住居用の感覚で「古くなった部分は貸主負担」と考えるのではなく、契約書、工事区分、入居時図面、造作譲渡の有無をそろえて確認してください。

業種別の費用相場(坪単価)

店舗原状回復の費用は、業種ごとの設備・内装の複雑さによって大きく変わります。原状回復の費用相場ガイドは住居中心の数値ですが、店舗は以下の水準が目安になります。

業種坪単価の目安30坪の場合
小売店・物販店3万〜6万円90万〜180万円
美容室・サロン3万〜10万円90万〜300万円
飲食店(カフェ・軽食)5万〜12万円150万〜360万円
飲食店(厨房設備あり)10万〜15万円300万〜450万円
大型店舗・特殊設備15万〜50万円450万〜1,500万円

飲食店の費用が高くなる主な理由は、厨房設備の撤去・配管の原状復帰・グリストラップの処理・ダクトの撤去といった、他業種にはない工程が加わるためです。商業施設内のテナントでは、夜間作業や管理者の常駐が求められることがあり、通常より3〜5割増しの費用が発生するケースもあります。

美容室は給排水の配管がシャンプー台の数だけ増設されるため、配管の原状復帰費用が物販店より高くなります。エステサロンでは個室の間仕切り撤去も加わります。

業種別店舗原状回復費用相場(坪単価)

店舗の原状回復費用は、業種別に見るとさらに差が出ます。飲食店は坪10〜30万円が目安です。厨房設備、排気ダクト、グリストラップ、防水床、ガス配管の撤去が重なるため、同じ30坪でも物販店とは総額が大きく変わります。カフェ・喫茶店は坪8〜25万円で、重飲食よりは低いものの、給排水や排気設備の範囲によって上振れします。

美容室・サロンは坪7〜20万円が目安です。シャンプー台、給湯器、床下配管、個室ブース、照明設備の撤去が費用の中心になります。クリニック・病院は坪15〜50万円まで見ておくべき業種です。医療用電源、衛生設備、間仕切り、防音、放射線関連の仕様など、通常店舗にはない設備が入っているためです。

小売店・物販店は坪5〜15万円、学習塾・教室は坪3〜10万円が目安です。什器や棚の撤去、床・壁・天井の復旧が中心で、水回りや特殊換気が少なければ比較的抑えられます。ただし、商業施設内のテナントでは作業時間が夜間に限られ、搬出経路や養生の指定も厳しいため、路面店より高くなることがあります。見積もりでは、業種名だけで判断せず、厨房・給排水・排気・防火区画・看板・床防水の有無を個別に確認してください。

飲食店原状回復の特有費用 — ダクト/グリストラップ/排気

飲食店の原状回復が高額になりやすい理由は、目に見える内装よりも設備撤去にあります。排気ダクト撤去は50〜200万円程度が目安です。ダクトの長さ、屋上までの経路、油汚れの程度、共用シャフトを使っているかで費用が変わります。高所作業や足場が必要な場合は、撤去費より仮設費が大きくなることもあります。

グリストラップ撤去は10〜30万円、厨房排水管の撤去・復旧は20〜50万円が目安です。床を開口して配管を戻す場合や、防水層の復旧が必要な場合は追加費用が発生します。業務用冷蔵庫やフリーザーの撤去は各5〜20万円程度で、搬出経路が狭い地下店舗や上階店舗では分解搬出費が加わります。

防火区画の復旧も見落とされやすい項目です。厨房区画、排気設備、貫通部処理、防火扉周辺を戻す必要があると、30〜100万円程度の追加費用が出ることがあります。典型的な高額化パターンは、退去直前まで営業を続け、油汚れの清掃、厨房機器撤去、ダクト撤去、防水復旧を短期間で同時に進めるケースです。飲食店では営業終了日と退去日を同日にせず、少なくとも2〜4週間の撤去期間を確保してください。

スケルトン戻しと居抜きの判断

テナント退去時に「スケルトン戻し」を求めるか「居抜き」で次のテナントに引き継ぐかは、空室期間とコストに直結する判断です。

スケルトン戻しは、内装・設備をすべて撤去してコンクリート打ちっぱなしの状態に戻す方法です。次のテナントが業種を問わず自由に内装を設計できるため、テナント誘致の間口が広がります。一方、退去テナントの費用負担が大きく、工事期間も長くなるため、退去交渉で揉めるリスクがあります。

居抜きは、既存の内装や設備を残したまま次のテナントに引き渡す方法です。退去テナントの費用負担が軽減され、次のテナントの初期投資も抑えられるメリットがあります。同業種のテナントが見つかりやすい立地(飲食店街、美容室が集まるビルなど)では、居抜きのほうが空室期間を短縮できることがあります。

判断の目安として、退去テナントと同業種の後継テナントが見込める場合は居抜き優先、異業種のテナントを幅広く募集したい場合はスケルトン戻しが基本です。いずれの場合も、契約書の原状回復条項に基づいた判断が前提になります。詳細は居抜きと原状回復の判断基準テナント原状回復の全知識で解説しています。福祉施設の場合はグループホームの原状回復も参照してください。

契約書の原状回復条項で確認すべきこと

店舗の原状回復範囲は契約書で個別に定められるため、退去交渉の前に条項を精査しておく必要があります。

「原状回復」の定義が具体的に記載されているか。「入居前の状態に戻す」だけでは、どこまで工事するかが曖昧になります。スケルトン戻しなのか、内装はそのままでクリーニングだけなのか、設備の撤去範囲はどこまでか。具体的な記載がない場合は、テナントとの退去交渉で争点になりやすい箇所です。

指定業者条項の有無。ビルオーナーまたは管理会社が指定する業者で原状回復を行うよう定めている契約があります。指定業者条項がある場合、テナントが独自に安い業者を手配することはできず、指定業者の見積もりが基準になります。ただし、指定業者の見積もりが相場から大幅に乖離している場合は、テナントから異議が出ることがあるため、業者選びの基本基準に沿った適正な業者を指定しておくことが望ましいです。

原状回復の完了期限。退去日から○日以内に原状回復を完了させる期限が設定されている場合、工事のスケジュール管理が厳しくなります。特に飲食店の大規模撤去では、期限に間に合わせるために複数業者を同時投入する必要が出ることもあります。繁忙期対策の考え方は、店舗の退去集中時期にも応用できます。

店舗原状回復の業者選定ポイント

住居用の原状回復業者と店舗対応の業者は、求められるスキルセットが異なります。住居のクロス・床・クリーニングが中心の業者では、店舗の設備撤去や配管工事に対応できないケースがあります。

店舗の施工実績を確認すること。「原状回復」と一括りにしても、住居1,000件の実績と店舗50件の実績では、店舗案件での信頼度はまったく異なります。依頼予定の業種(飲食店、物販、サロンなど)の施工実績を具体的に確認してください。

解体工事の許可を持っているか。スケルトン戻しを伴う場合、解体工事業の許可(建設業許可の解体工事業、または解体工事業の登録)が必要になります。許可を持たない業者が下請けに丸投げする構造では、中間マージンが上乗せされ、費用が割高になります。

産業廃棄物の処理が適正か。店舗の原状回復では、内装材・設備・厨房機器など大量の産業廃棄物が発生します。マニフェスト(産廃管理票)の発行と適正処理が義務付けられており、不法投棄のリスクがある業者を選んでしまうとビルオーナーにも責任が及ぶ可能性があります。

見積もりの透明性。坪単価の幅が大きい店舗の原状回復では、「一式○百万円」の見積もりだけで判断するのは危険です。解体・搬出・配管・電気・クリーニングなど工程別の内訳が明記された見積もりを取り、退去立会い時のチェックリストで記録した現場状況と照合してください。

店舗原状回復費用を抑える節約術

店舗で最も効果が大きい節約策は、居抜き退去です。飲食店や美容室では厨房、カウンター、シャンプー台、個室ブースを次のテナントが使える可能性があります。貸主の承諾と後継テナントの確保が前提ですが、スケルトン戻しを避けられれば原状回復費用を大幅に減らせます。造作譲渡料が発生する場合は、工事費の削減に加えて売却益が出て、退去精算が黒字化する事例もあります。

2つ目は、内装業者を指定されていない場合に複数社から見積もりを取ることです。店舗工事は業者によって得意分野が違います。飲食店のダクト撤去に強い業者、美容室の給排水復旧に慣れた業者、物販店の短期解体に強い業者では、見積もりの精度と工期が変わります。

3つ目は、退去前に使える備品を買取業者へ査定依頼することです。厨房機器、冷蔵庫、製氷機、美容機器、什器、照明、レジ周辺機器は、廃棄するより売却したほうが処分費を抑えられます。4つ目は、不用品の自己処分です。テナント側で一般廃棄物やリサイクル可能品を整理しておくと、廃材処理費と搬出人工を削減できます。

5つ目は、賃貸借契約の特約交渉です。退去が決まってからでも、貸主が次テナントを優先する場合は、原状回復範囲を限定できることがあります。スケルトン戻しではなく部分復元、看板撤去のみ、厨房設備は残置など、契約書と募集方針を合わせて交渉してください。

店舗原状回復のトラブル回避 — 契約書チェック項目

店舗退去で揉めないためには、工事前に契約書を確認することが最も重要です。まず「指定業者」条項を確認してください。貸主または管理会社の指定業者で施工する契約なら、テナントが安い業者を見つけても自由に発注できない場合があります。指定業者制でも参考見積もりを取ることで、金額の妥当性は検証できます。

次に、原状回復範囲が明文化されているかを見ます。スケルトン戻しなのか、部分復元でよいのか、居抜き返しが認められるのか、看板・厨房・給排水・排気・床防水をどこまで撤去するのかを確認してください。退去通知期間も重要です。店舗では6か月前通知が多く、通知が遅れると余分な賃料や短期工事費が発生しやすくなります。

保証金・敷金の充当条件も見落とせません。原状回復費用に充当できるのか、償却後の残額だけが返還対象なのか、精算時期はいつかを確認します。経年劣化の取扱い特約も争点になります。住居用と違い、事業用では契約特約の影響が大きいため、曖昧なまま工事に入らないでください。トラブルが長引く場合は、中小企業診断士、弁護士、商工会議所に相談し、費用と営業再開・撤退スケジュールへの影響を切り分けて判断します。

出典・参考文献

店舗原状回復のご相談

店舗物件の原状回復について、業種に応じた費用の見積もりが必要な方は無料見積もりをご利用ください。飲食店・物販店・サロンなど業種を問わず対応しています。テナント退去に伴う業者選定のご相談はお問い合わせフォームから受け付けています。

よくある質問

店舗原状回復の費用相場はいくらですか?
本文の業種別費用表では、小売店・物販店は坪3万〜6万円、美容室・サロンは坪3万〜10万円、飲食店カフェ・軽食は坪5万〜12万円、厨房設備ありの飲食店は坪10万〜15万円、大型店舗・特殊設備は坪15万〜50万円が目安です。30坪では90万〜1,500万円まで差があります。商業施設内では通常より3〜5割増しになることもあります。
スケルトン戻しとは何ですか?
スケルトン戻しとは、店舗の内装・設備をすべて撤去してコンクリート打ちっぱなしの状態に戻す方法です。本文では、次のテナントが業種を問わず自由に内装設計できる反面、退去テナントの費用負担が大きく、工事期間も長くなるため退去交渉で揉めるリスクがあると説明しています。入居前の状態に戻す大規模な解体工事です。
居抜き返しとの違いは何ですか?
居抜きは、既存の内装や設備を残したまま次のテナントに引き渡す方法です。本文では、退去テナントの原状回復費用を軽減し、次のテナントの初期投資も抑えられる点がメリットとしています。同業種の後継テナントが見込める場合は居抜き優先、異業種募集ならスケルトン戻しが基本です。飲食店街や美容室が集まるビルでは空室短縮につながります。
店舗原状回復で注意すべき点は?
本文では、店舗は国交省ガイドラインが直接適用されず、賃貸借契約書の特約条項で範囲が決まると説明しています。内装造作、厨房設備、電気・ガス・給排水の配管、看板撤去まで対象になり得るため、原状回復の定義、指定業者条項、完了期限を退去交渉前に確認する必要があります。飲食店では1か月を超える工期もあります。
店舗原状回復の業者はどう選べばよいですか?
本文では、住居用業者では店舗の設備撤去や配管工事に対応できない場合があるため、依頼予定の業種での施工実績を確認すべきとしています。スケルトン戻しでは解体工事業の許可、産業廃棄物のマニフェスト発行、解体・搬出・配管・電気・クリーニングの内訳明細も重要です。店舗50件など具体的な実績を確認します。相見積もりも有効です。

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