更新通知が届いてから退去を考える場合、最大の分かれ目は「更新日前に契約を終えられるか」です。退去する意思があっても、解約予告期間に間に合わなければ、契約上の解約日が更新日をまたぎ、更新料や更新後の日割り家賃が発生することがあります。
更新前退去では、更新料を払うかどうかだけを見ても判断できません。更新日、解約予告期間、正式通知の受付日、鍵返却日、最終家賃の精算方法を同じ表に並べ、どの日付で費用が発生するのかを確認する必要があります。
更新前退去なら更新料は発生しない
更新しないなら更新料は原則かからない
更新料は、賃貸借契約を更新することに伴って支払う一時金です。契約が更新日前に終了するなら、更新そのものが行われないため、原則として更新料は発生しません。更新通知が届いていても、更新日より前に正式な解約日を置けるなら、更新料請求を避けられる可能性が高くなります。
注意したいのは、退去日と解約日が同じとは限らない点です。5月31日に荷物を出して鍵を返すつもりでも、解約予告期間の不足により契約上の解約日が6月15日になることがあります。更新日が6月1日なら、形式上は更新日をまたぐため、更新料の発生が争点になります。
更新料の請求可否は、契約書の更新条項、更新案内、管理会社の運用で変わります。更新料の発生日が「更新日到来時」なのか、「更新合意書提出時」なのか、「更新料支払時」なのかも確認してください。
法定更新でも更新料が問題になることがある
借主が更新書類を出さず、退去通知も出さないまま期間満了日を過ぎると、契約が法定更新されることがあります。普通借家契約では、貸主が更新拒絶をするには借地借家法27条の通知期間や同法28条の正当事由が問題になりますが、借主が何もしなくても費用ゼロで終わるという意味ではありません。
契約書に法定更新時の更新料を定める条項がある場合、更新料請求が争点になることがあります。退去するつもりなら、更新書類を出さずに放置するのではなく、契約書で指定された方法で解約通知を出してください。
借主から退去する場合は、民法618条の解約権留保と契約書の中途解約条項が中心です。期間の定めがない状態になった場合の一般規定として民法617条も参照されますが、実務では契約条項を先に確認します。
解約予告期間と更新日の逆算
1ヶ月前通知の計算例
更新日が8月1日で、1ヶ月前通知の契約だとします。更新料を避けたいなら、7月31日までに契約上の解約日を置く必要があります。この場合、6月30日までに管理会社へ正式な解約通知が到達しているかが一つの目安になります。
6月30日が日曜日で管理会社が休み、Webフォームの受付が7月1日扱いになると、解約日が8月1日以降になる可能性があります。月末や連休を挟む場合は、通知期限を数日前倒しで考えるほうが安定します。
退去日を7月25日にしても、解約通知の受付が遅ければ、最終家賃は7月31日までで済まないことがあります。解約予告期間は「実際に部屋を出る日」ではなく「契約を終了させるための通知期限」として扱われます。
2ヶ月前通知の契約は早めの判断が必要
分譲賃貸や法人契約、築浅物件では、借主からの解約予告期間が2ヶ月前になっていることがあります。更新日の2ヶ月前までに退去判断が必要になるため、更新通知が届いた時点ではすでに期限が迫っている場合もあります。
2ヶ月前通知なのに、更新日の1ヶ月前に更新通知が届いた場合は、管理会社へすぐ確認してください。更新通知の到着時期が遅かったこと、退去意思があること、更新料を避けたいことを伝え、更新日前解約として扱える余地があるか相談します。契約書上は厳しくても、次の募集に支障が少ない場合は調整に応じることがあります。
退去連絡の受付方法や期限超過時の扱いは賃貸退去連絡の手順で確認できます。更新前退去でも、正式受付日の証拠を残すことが重要です。
更新通知が届いたら確認すること
更新料と更新事務手数料を分ける
更新通知には、更新料、更新事務手数料、火災保険料、保証会社更新料、口座振替手数料などがまとめて書かれていることがあります。更新前に退去する場合、どの費用が不要になるのかを分けて確認してください。
更新料は貸主へ支払う費用、更新事務手数料は管理会社や仲介会社の手続費用、火災保険料や保証会社更新料は別契約の更新費用です。賃貸借契約を更新しなければ不要になるものが多い一方、すでに更新手続きが進んでいると手数料の返還可否が争点になることがあります。
請求書に総額だけが書かれている場合は、内訳を求めます。退去するなら、更新料の支払いをいったん止めてよいか、保証会社や火災保険の更新手続きも止まるか、管理会社に確認します。
口座振替やクレジットカード払いを設定している場合は、更新関連費用が自動で引き落とされる日も確認します。退去通知を出したつもりでも、請求データの停止が間に合わず、いったん引き落とされてから返金処理になることがあります。支払いを止める必要があるときは、管理会社に無断で引落口座を空にするのではなく、請求停止の可否と未払い扱いにならない方法を確認してください。
解約通知の指定方法を見る
契約書や更新案内には、退去通知の方法が書かれています。所定の解約通知書、入居者アプリ、Webフォーム、メール、郵送などです。契約書に書面提出が必要とあるのに電話だけで済ませると、正式受付にならないことがあります。
更新前退去は期限が厳しいため、電話で相談した当日に、指定方法で通知まで済ませるのが実務的です。郵送が必要な場合でも、先にメール添付で受け付けてもらえるか確認してください。管理会社が「原本到着日を受付日」と言うなら、配達記録が残る方法で送り、到着予定日を把握します。
更新書類への署名前と署名後で何が変わるか
署名前なら更新料を避けやすい
更新合意書に署名する前で、解約予告期間にも間に合っているなら、更新料を払わずに退去できる可能性が高くなります。この段階では、管理会社へ「更新せず、契約を○月○日で解約したい」と明確に伝えます。
更新案内に返送期限が書かれていても、退去通知を出す場合は別です。更新書類を返送しないだけでは退去通知にならないため、解約通知を必ず出してください。更新書類を放置すると、管理会社から更新意思があるのか退去するのか判断できず、後で受付日を争う原因になります。
署名後は更新料の返還が難しくなる
更新合意書に署名して提出した後は、更新契約が成立したと扱われやすくなります。更新料を支払った後なら、更新日前に実際の退去が決まっても、返還を求めるハードルは上がります。
それでも退去自体は、中途解約条項に従って可能です。焦点は、更新料の返還、更新事務手数料、短期解約違約金の有無に移ります。更新後すぐに退去する場合の費用整理は賃貸の更新後すぐに退去を参照してください。
署名後に事情が変わった場合は、時系列を正確に残します。更新書類提出日、更新料支払日、転勤内示日、新居契約日、退去通知日です。貸主側に調整を依頼する場合、事情変更がいつ起きたかは重要です。
更新前退去の連絡方法と文面
メール文面の例
更新前退去では、退去意思と更新料の扱いを同時に確認する文面にします。たとえば、次のような内容です。
「賃貸借契約について、更新せず、○年○月○日付で解約を希望します。物件名は○○、号室は○号室、契約者は○○です。本通知が正式な解約通知として受け付けられる日、契約上の解約日、更新料の発生有無、最終家賃の計算方法をご返信ください。所定書式が必要な場合は本日中にご案内ください。」
この文面では、単なる相談ではなく解約意思であること、更新しない意思であること、管理会社に確認してほしい項目が明確になります。送信後は、返信が来るまで待つだけでなく、期限が迫っている場合は電話でも到達確認をします。
口頭連絡だけで終わらせない
更新前退去でよくある失敗は、電話で「退去するかもしれません」と伝えただけで正式通知を出していないケースです。管理会社側では相談扱いになり、後日通知した日から1ヶ月後が解約日とされることがあります。
電話で話した場合は、直後に「本日お電話した件」としてメールを送り、話した内容を記録化します。担当者名、日時、退去希望日、案内された手続き、受付日の扱いを入れておくと、後で認識違いを減らせます。
管理会社から指定書式の提出を求められた場合は、メール本文だけでなく書式の提出まで完了させます。書式に退去理由を書く欄があっても、長い説明は不要です。転勤、住み替え、家庭事情など簡潔に記載し、費用確認は別メールで行うと、解約通知としての内容がぶれません。
更新前退去でも残る費用
原状回復費とクリーニング特約
更新料を避けられても、退去時の原状回復費は別に精算されます。民法621条は、賃借人が通常損耗や経年変化を除き、賃借物を受け取った後に生じた損傷を原状回復する義務を定めています。更新前退去だからといって、通常損耗まで借主負担になるわけではありません。
ハウスクリーニング費用、エアコンクリーニング費用、鍵交換費用などの特約がある場合は、契約書に金額と負担範囲が明記されているかを確認します。金額不明、説明不足、相場から大きく外れる請求は、消費者契約法10条の観点で検討します。
短期解約違約金がある契約では、更新前退去でも起算点が問題になります。初回入居から1年未満で退去する場合は、賃料1ヶ月分などの違約金が発生する可能性があります。違約金が解除に伴う損害賠償額の予定なら、消費者契約法9条の平均的損害額との関係も確認します。
火災保険と保証会社
火災保険や家賃保証契約は、賃貸借契約とは別に更新されることがあります。賃貸借契約を更新しない場合、保険の更新も不要になることが多いですが、すでに保険料を支払った場合は、未経過期間の返戻金があるかを保険会社に確認します。
保証会社更新料も、保証会社の規約によって扱いが変わります。退去日や解約日が確定したら、管理会社だけでなく保証会社にも契約終了予定を共有してもらえるか確認してください。家賃の引落しが続くと返金手続きが増えます。
更新前退去のトラブル事例
更新通知の返送期限だけ見ていた
更新案内に「5月20日までに更新書類を返送」と書かれていたため、5月20日までに判断すればよいと思っていたケースです。実際には契約更新日が6月1日、解約予告期間が1ヶ月で、4月末までに解約通知が必要でした。この場合、更新書類の返送期限と退去通知期限は別です。
更新通知が届いたら、返送期限ではなく更新日を起点に考えてください。退去する可能性があるなら、管理会社へ「更新しない場合の最終通知期限」を確認します。
更新料を払わずに退去だけした
更新料を払わず、解約通知も曖昧なまま荷物を出して鍵を返したケースでは、契約上の終了日が争われます。鍵を返した日で当然に契約が終わるとは限りません。解約通知が正式に受け付けられていなければ、更新料や更新後の家賃を請求される可能性があります。
退去前には、解約日、最終家賃、更新料の有無を管理会社の返信で確認してください。鍵返却は明渡しの重要な手続きですが、解約通知の代わりにはなりません。
更新書類に署名後、新居審査が通った
新居の審査結果を待つために更新書類を先に出し、その後すぐ転居が決まるケースです。この場合、更新料の返還は難しくなりやすいものの、退去通知を早く出せば追加家賃は抑えられます。
更新料を争うより先に、解約予告期間を止めるための正式通知を出してください。その後、更新後の居住期間が短いことや、更新前から転居を検討していたことを説明し、更新事務手数料や違約金の調整を相談します。
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出典・参考文献
- 民法(e-Gov 第617条・第618条・第621条): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 借地借家法(e-Gov 第27条・第28条): https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
- 消費者契約法(e-Gov 第9条・第10条): https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」案内ページ: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html